何に見えますか?

「これはサイコロである」と、学生の多くは答えてしまいます。なぜでしょう。その理由は、名辞(名前)にあります。つまり、彼らはこの視覚的物体に類似する概念を記憶の中から呼び起こし、その名辞を当てはめたのです。中には、想像力を発揮して見ようとする者もいます。「これはサイコロらしい。しかし、1の裏側はどうなっているだろう。6なのだろうか」という風に。しかし、大半は名辞化の習慣、すなわち名前とセットで「眺め渡すことで身につけてきた習慣」[ヒューム2012]に従うのです。そのメリットとは、ヒュームの言葉を借りれば「抽象観念はすべて、ある見方からすれば、実際は個別観念にほかならない。しかし、それが一般的名辞と結びつくと、きわめて多種多様な対象を表現すること」[同書]ができることなのです。それ故に、「経験の諸事情を記述する代わりに、これらの言葉は理論の人工物を説明するために使用」[レイン1975]されることが多いのです。
経験において名辞の記憶が知覚や想像に勝ってしまい、この言葉の持つ抽象観念から解釈することはよくあることなのです。(第3講 解釈の方便より抜粋)
Comments